NASによるiSCSIのススメ

僕の自宅は相当前からNAS(Network Attached Storage)を使っている。家庭内での写真、音楽の共有や各種ファイルの共有、それぞれのPCのバックアップなどベタな使い方はもちろんのこと、それ以外にもアプリを追加して様々なサービスが利用できるのが特徴だ。そんな中で僕が重宝している機能の1つがiSCSIサービスだ。

iSCSIとは

もともとコンピュータのストレージ接続の方式としてSCSIという規格が存在していたが、iSCSIはこれをTCP/IP上で使うための規格だ。

簡素な言い方をすれば、PCからNAS上に設けたストレージ領域に接続するための手段の1つだが、NASに共有フォルダを作って利用することとの違いは、PCから見てiSCSIで接続されたディスクはローカルディスクに見えること。つまり、あたかもPCに内蔵しているディスクとして振る舞う。

共有フォルダをネットワークドライブに割り当てる場合、多くのアプリはこのドライブをアプリケーションのインストール先に指定出来ないし、Outlookなどのメールソフトではメールデータの格納先として推奨していない。iTunesやiCloudフォトの保存先として設定しても、いつの間にかCドライブ等のローカルドライブに勝手に切り替わってしまった経験があるだろう。これらはiSCSIを使うことで解決できる。

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ノートPCだからこそ使ってみる

自作PCなどの箱型デスクトップであれば、テラバイト級のハードディスクを比較的安価に増設することが出来るものの、最近ではゲーマーでもない限りノートPCを選ぶ方の割合が多くなっているはず。

そのノートPCではストレージとしてSSD化が進んでいる。だがSSDそのものがハードディスクに対してまだ高価なために搭載容量も抑えられているのが現状だ。

我が家でも家族は全てSSD対応のノートPCだが、ディスク容量は128GBや256GBだったり。しかしながら扱うデータは何年も前から蓄積された膨大な写真や音楽データが中心。

よって家族のPCにはiSCSIを設定して、ディスク容量を圧迫しがちな写真や音楽などのデータをiSCSI側に退避させる設定をしている。当然ながら外出時にPCを持ち出すと使えなくなるが、その様な使い方はしていない様なので。

ノートPCでiSCSIを使うメリットは、デスクトップPCに匹敵する様なディスク容量の拡張性にある。もしNASの容量が不足してきたらNAS側のDISKをより大容量の物に換装すれば良い。更にRAID対応のNASであれば万が一ディスクが破壊しても、消えてはいけない大事なデータが保護できるメリットも大きい。

ところでどうやって設定する?

iSCSIの構成の仕方は本来ここに書くべきなのだが、既にいっぱいWEBに上がっているのでここでは割愛させて頂きたい(モノグサでスイマセン)。お使いのNASによって多少手順は違うものの簡単なので是非チャレンジしてほしい。大まかな手順としては以下。

① NAS側でiSCSIターゲット、LUNの設定をする。

② PC側でiSCSI イニシエータの設定をする。

③ OSから新しく見えるボリュームにドライブレターを付けてフォーマットする。(Windowsの場合)

アクセス速度の実際

いくら内蔵ドライブに見えるといっても、ネットワーク越しだからアクセス速度は家庭内LANのネットワーク性能に依存する。それは仕方の無いこととして実際にどの程度差があるのかを実測した。

測定環境

今回の測定環境を説明すると、PCはIntel Core i5-7500、DDR4-2400 16GB、SSD 256GB(NVMe)、NICは10Gbpsに対応したIntelのX540-T1を搭載したデスクトップ機を利用した。

NASはQNAPのTS-253Dを利用。Celeron J4125、メモリは8GBに増設、ハードディスクはWDのWD20EFRXをRAID1で構成。TS-253Dは2.5GbpsのLANポートを2ポート搭載している。

上記のPCとNASの間をバッファローのスイッチングハブ(LXW-10G2/2G4)で中継させた。

LXW-10G2/2G4はマルチギガ対応の10Gbpsポートを2ポート、2.5bpsポートを4ポート搭載する。これを利用することでPCとスイッチ間は10Gbps、スイッチとNAS間は2.5Gbpsでの環境を構築した。

今回はSMBによる一般的なファイル共有と、iSCSIの場合との速度差の確認に加え、ネットワーク速度にどれだけ依存しているのかを調べてみる。

なおネットワーク速度は、X540-T1をオートネゴに設定した場合、PCとスイッチ間は10Gbpsで接続されるものの、スイッチとNAS間は2.5Gbpsが上限であるため、実質的にPCからNASへの通信速度も2.5Gbpsとなる。またX540-T1はマルチギガ対応ではなく10Gbpsの下は1Gbps設定になる。従って1Gbpsに設定した場合はPCとスイッチ間は1Gbpsに固定され、PCとNAS間の全体的な通信速度もこの1Gbpsが上限となる。

この2つの設定を利用して、PCとNAS間を2.5Gbpsと1Gbpsの両方でディスクアクセス速度を測定した。なおジャンボパケットはNIC、NAS共に9000に設定する。

測定結果

PC内蔵SSD : 参考

内蔵SSDとは比較にならないが、まず参考値として測定。

次からNASに対するアクセス速度を確認してみる。まずは1Gbpsから。

PC–(1Gbps)–HUB–(2.5Gbps=1Gbps)–NAS

① SMBによるファイル共有

② iSCSI

リードは少しだけiSCSIの方が遅い結果となったが誤差と見るべきかもしれない。ライト性能はiSCSIの方が全般的に高い。ここで着目すべき点はリードもライトもシーケンシャルアクセスでは約120MB/sとなっている。120MB/s=960Mbpsであることから、PCとNAS間の通信速度(1Gbps)の上限速度に達していることを意味している。つまり通信速度がボトルネックになっている可能性も見えてきた。

よって次に2.5Gbpsでの測定を行ってみた。

PC–(10Gbps=2.5Gbps)–HUB–(2.5Gbps)–NAS

① SMBによるファイル共有

② iSCSI

シーケンシャルリードを見ると共に309MB/s(2.472Gbps)となっており、今回のPCとNAS間の通信速度である2.5Gbpsの上限速度に達していることが確認できる。ライト性能もリード性能ほどの変化は見られないものの全般的に性能が向上している。SMBとiSCSIとの比較は若干ではあるが全体的にiSCSIが高速である傾向が見て取れる。

番外編:B社製 USB3.0 外付けハードディスク

これは参考データとして・・・。USBハードディスクを持ち歩くのはもうやめよう。

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結論:これだけ性能出ていれば十分使える

シーケンシャルリードでは共に通信速度がボトルネックになっている可能性が見えてきた。ということは、ネットワークを速くしていけば、より高速なアクセスが可能になるかもしれない。

TS-253DはPCI-Eのx4スロットを搭載しており10Gbps NICを増設できる。これは是非試してみたい。一方でNASのハードウェア構成はインテルPCそのものだ。アクセス性能は本体のメモリやCPU性能に依存しているはずだし、NASに組み込むハードディスクの性能もネットワークから見た時はシステム性能に隠蔽されるのかもしれない。その意味でUSBの外付けディスクとは比べ物にならないくらいのパフォーマンスが得られるのも理解できる。

それ以上にiSCSIはローカル接続のストレージに見えるのだから、これまでの様にPCケースにハードディスクを追加していく感覚で、必要に応じてNASに巨大なストレージを増設して家族全員で共有していく運用は使い勝手としてもコスト的にも大きなメリットがあるし、是非試してみることをおススメしたい。

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