前回、普通のパソコンでマイニングを行った場合、投資対効果が得られ難いことを紹介しました。では具体的にどの様なハードウェアを準備すべきでしょうか。
今回はその解説をしていきますが、少しだけ自作パソコンの知識が必要です。ここでは説明を省略しますので、わからない単語が出てきたら適当にググってくださいね。
マイニングリグ
マイニングを本格的にやるなら、マイニングに特化したパソコンを準備する必要があります。普通の市販パソコンとの違いは、電力を抑えながらハッシュレートを極限まで上げるために構成されている点です。
例えばマイニングのキーパーツとなるのはグラフィックスボード(グラボ)です。普通のパソコンだと通常1枚搭載されているか、全く搭載されていないこともありますが、マイニングでは複数のグラボを搭載するのが普通です。またグラボは大電力を消費するので、この電力を供給できる電源ユニットも必要です。
上の写真がマイニング専用に組まれたパソコンの例です。何枚も同じカードが接続されていますがこれがグラボです。大きな熱が発生しますので、ケースには入れずにこの様なオープンフレームに組み込み、冷却し易くしているのが特徴です。この様なパソコンをマイニングリグと呼んでいます。
主役はグラフィックスボード(グラボ)
前回はCPUでのマイニングを行いました。でも結論から言うとCPUはマイニングには不向きなのです。最近になって一部のメーカが発表した新しいCPUが、CPUマイニング専用のアルゴリズムによって収益性があるということで盛り上がりを見せていますが、基本的にマイニングは同時並列的に計算することが求められるため、1個づつ命令実行をおこなうCPUではどうしても不利なのです。
マイニングを生業とする業者はマイニング専用のコントローラ(ASICという半導体)を搭載した物を大量に用意してマイニングを行っています。その一方でグラボを使ったマイニングが注目されてきました。
グラボの心臓部はGPUという半導体です。GPUは内部に多数の実行ユニットを持ち、単純で膨大な計算を並列実行できるのが特徴です。この特徴とマイニングの処理が噛み合い広く使われる様になりました。
前置きが長くなりましたが、パソコンを使ったマイニングで儲けを出すためにはグラボが必要不可欠です。そしてこの電力をうまく調整して投資対効果の最大化を図る様にチューニングを行います。
マザーボード
マザーボードは様々なメーカから販売されていますが、とりあえずインテル第6世代Coreプロセッサ以降のCPUに対応したマザーボードを選んでおきましょう。
マイニングリグに使うマザーボードは一見すると自作パソコンで使われる物と同じですが、グラボを何枚も搭載できる様に、PCI Express(x1)の拡張スロットが多数存在するのが特徴です。
でもグラボには厚みがあり、いくらスロットがたくさんあっても物理的に搭載できないですよね。
これを解決するのがライザーカードです。マイニング用に発売されているマザーボードの多くはこのライザーカードを使うことを前提としてます。また複数のグラボを装着できる様にBIOSレベルでの対応もされています。
ライザーカード
以下がライザーカードです。このカードにグラボを装着します。ライザーカードには電源コネクタがあり(画像右側の黒いコネクタ)、電源ユニットと接続します。
電源コネクタの上にUSB3.0のコネクタがあります。このコネクタとマザーボードをUSB3.0ケーブルで接続するのですがマザーボード上のUSB3.0コネクタに接続してはいけません。専用基板と接続します。
以下↓がPCI Express(x1)用の専用基板です。これをマザーボードのPCI Express(x1)スロットに挿入して上記のライザーカードとUSB3.0ケーブルで接続します。普通はライザーカードを購入すると本基板とUSB3.0ケーブルが添付されてきます。
マザーボードとの接続は以下の様なイメージです。
この様に接続した場合、グラボはPCI Express x16レーン、マザーボード側はx1レーンで接続することになりますが、PCI Expressはどんなカードでもx1では動作する仕様なので問題ありません。実際はx16よりもx1の方が伝送速度は低下しますが、マイニング効率への影響はほぼありません。
ライザーカードとマザーボード間はPCI Express信号をUSB3.0ケーブルを使って中継しますが、ここにもう1つの注意が必要です。
USB3.0は伝送速度が仕様上5Gbpsですが、PCI Express Gen3の場合は8Gbpsとなります。現在のグラボは殆どの場合Gen3に対応しているでしょうから、マザーボードはそれを検出して自動的にGen3(8Gbps)で接続しようとします。しかし中継するUSB3.0ケーブルは5Gbps以上の速度に対応していないため、結果として通信ができないか、不安定な動作となる恐れがあります。
これを回避するためにマザーボードのBIOS設定で、PCI Expressの設定をGen2(5Gbps)かGen1(2.5Gbps)に固定します。PCI Expressの速度はマイニング効率に影響を与えることはほぼ無いため、安全策としてGen1に固定することをお勧めします。
もう一点重要な注意点としては、ライザーカードに接続する電源ケーブルは電源ユニットから直接接続する必要があります。これは最悪火災の恐れがあるので必ず守る必要があります。
ライザーカードには以下の様な電源コネクタの変換ケーブルが添付されてくるはずですが、これは絶対に使ってはいけません。
上記の変換ケーブルの場合、右の白いコネクタがライザーカードへ接続、左の黒いコネクタは電源ユニットから出ているSATAハードディスク用の電源コネクタに接続することを想定しています。
PCI Expressはx1レーンで接続する場合、最大75Wの電力を消費することになっています。これを電流換算すると最大6.25Aの電流となります。これがライザーカードに供給される電流としてケーブルに流れることになります。
しかし左の黒いコネクタは4.5A以上の電流を流すことができないのです。無理に6.25Aを流し続けると次第に発熱し最終的には発煙、発火に至る恐れがあるのです。
CPUとメモリはどんな物が良いの?
グラボだけでマイニングするのであれば、実際のところCPU性能はあまり必要ではなく初期投資を抑えるためにも安価な物で構いません。例えばインテル社のCPUであればCeleronで十分です。
Celeronはいくつか種類がありますがマイニング用途で考えるなら、消費電力の小さい物を選びましょう。例えば第6世代Core (Skylake)のCeleronの場合、G3900とG3900Tがありますが前者はTDP51W、後者はTDP35Wです。マイニングは長期に渡って動かし続けるため消費電力を少しでも下げる意味でも、G3900Tを選択するのがベターです。
メモリは4GBでも問題ありませんが、マイニングをしている間はリモートデスクトップや他のツールを動かしてメンテナンスすることも多いため、余裕を持って8GBにしておいた方が無難です。
影の主役、電源ユニット
電源ユニットの役割は、コンセントのAC100Vからパソコンを動作させるための電圧に変換することです。
この変換を行う際に、コンセントからの供給電力が100%パソコンに供給される訳ではなく、少しの電力は熱として消費されてしまいます。これをいかに抑えられるか(変換効率が良いか)は電源ユニットの性能に依存します。電力を抑えたマイニングリグを作成する上で電源ユニットの選定は非常に重要なのです。
パソコン用の電源ユニットには80PLUSという規格があります。
以下の表を参照すると、80PLUS Goldの電源ユニットは負荷率50%の時(1000Wの電源ユニットであれば500Wを消費している時)、90%の効率であることを示しています。
つまりリグの消費電力が500Wの時、コンセント側からは550Wの電力を消費するという意味になります。これはPlatinum,Titaniumになれば効率が良くなっていくことがこの表からわかると思います。
なお、一般的に変換効率は負荷率が50%近辺が最も良くなります。リグの消費電力を予め見積もっておき、十分に余裕のある電源ユニットを購入することがコツになります。
その他、電源の選び方としてコンデンサは100%日本製の物を利用しているか、グラボ用の電源コネクタが必要数以上あるか(将来グラボを搭載する枚数に見合った数のコネクタがあるか)など、マイニングを行う前提に沿って選びましょう。
ワットチェッカーで電力を確認
マイニングリグとしては以上ですが、いかに電力を抑えるか管理することが重要です。そのためには常に消費電力は「見える」必要があります。
電源ユニットの中には自分の消費電力をソフトウェアで表示したり、記録したりできるものもありますが、一番お手軽で確実なのはワットチェッカーを使うことです。
マイニングコストを正確に掴むには、積算電力が記録できるワットチェッカーを使い、1カ月ごとにリグで消費した電力値から電気代を計算します。この電気代と1カ月のマイニング報酬額を比較してリグの見直しを図ったり、場合によっては電力会社を見直したり、より儲けが出るための対策を打っていきます。
注意すべきこと
マイニングは大電力の装置を毎日動かし続けるため、火災には十分注意が必要です。以下の点に気を付けて実施する様にしましょう。
初期投資は余裕資金で
マイニングリグを作ろうとするとそれなりに初期投資が発生します。その投資はマイニング収入で回収していくことになりますが、回収までにどれ位の時間が掛かるかは仮想通貨の市況しだいと言えます。
例えばその時点での計算では回収に3年掛かるとしても、その間に仮想通貨の市場価格は変動しますから、2017年頃の仮想通貨バブルの様に上昇していけば極端に言えば数カ月で回収できる可能性もありますし、逆に市場価格が下がっていきどんなに効率の良いリグでも電気代が上回ってしまう場合も当然あり得ます。(この場合はマイニングを一旦止めるなどの決断が必要になります。)
マイニング初心者の方は最初からあまり大きな投資をするのは避けましょう。回収には数年掛かる覚悟を持ち、最悪無くなってもいい余裕資金を利用して最低限のリグを構築することから始めるのがベターです。
後ろを振り返らないで
マイニングリグについての説明は以上です。一旦リグを組んだら効率的なリグを構築するために前向きに頑張ってみましょう(後ろを振り向かないでくださいね。。)
次回以降は実践編としてマイニングのキモとなるグラボの調整方法を説明していきます。